2019年8月1日木曜日

在籍していないメンバーの音

メンバー・チェンジの多いバンドの中でも、Whitesnakeの場合は不思議な現象が見られる。
それは在籍していないメンバーの音が聴こえるということだ。

例えば、Deep Purpleにしろ、Rainbow、Black Sabbath、Ozzy Bandにしろ、メンバー・チェンジが多いバンドでも、新ラインナップになってから、曲作り、レコーディングという流れになる。(大抵、その前に顔見せ公演がある)
だから、「新譜は新メンバーによるもの」という、当たり前で分かりやすいものになる。
しかし、Whitesnakeの場合は、レコーディングの途中でトラブルが起きる場合が多いので、そのために他のバンドではあまり見られない現象が起きる。つまり新旧メンバーが入り乱れることになるというものだ。
作曲した時期と完成する頃ではメンバーがガラッと変わる場合もあり、その場合は特定の主力メンバーの色が全面に出ることなく、少し焦点がボケたような出来になる。

一番有名な例は『Slide It In』だ。
これをレコーディングした後に種々の理由で大幅なメンバー・チェンジがあった。(その理由や詳細等は別項で)
そして作曲メンバーではない、新メンバーのジョン・サイクスとニール・マーレイがすでにレコーディングを終えていたものにオーバーダビングをしてからリリースしたという例がある。

特によく目立つギターのみに注目してみるが、『Slide It In』の元々のオリジナルではミッキー・ムーディとメル・ギャレーのツイン・ギターとなっている。UK盤はこれでリリースされていて、個人的にはUK盤の方が狙いがハッキリしていて良いように感じる。

UK盤が完成した後にミッキーが脱退したので、ミッキーのソロ・パートを中心に新加入のジョン・サイクスが録音を差し替えた。タイトルソングの「Slide It In」等がその典型例で、ソロだけでなく、よく聴けばバッキング・パートもサイクスの音が聴こえる。(UK盤と聴き比べれば明らか)

ところが、ミッキーの音をすべて消したのかというと、そうでもない。
一番分かりやすいのが、ミッキーの曲もある「Slow An' Easy」だ。印象的なスライド・ギターは、もちろんスライドの名手・ミッキーのもの。しかしサイクスの音も聴こえる。つまりこの曲ではメルも含めた3人のギターの音が聴こえるということになる。
同時に在籍したことのない、ミッキー・ムーディとジョン・サイクスの音だ。

これとほぼ同じことが他のアルバムでも起こっている。
一つ前の『Saints And Sinners』ではバーニー・マースデンとメル・ギャレーの音(声)が聴こえるが、この2人が同時に在籍したことはない。バーニーの代わりにメルが加入したのだ。
このアルバムの場合は、メルはギターは弾いていないようなので、バーニーとメルのギターが同時に聴けるわけではないが、例えば「Young Blood」や「Here I Go Again」のハーモニーの一番高い音を歌っているのがモロにメルの声だ。バーニーのヴォーカル・ハーモニーも多用されていて、このアルバムではバーニー、ミッキー、メルのハーモニーが聴けることになる。

大ヒット作の『Surpens Albus』では「Here I Go Again」の1曲だけながら、ジョン・サイクスとエイドリアン・ヴァンデンバーグのギターを同時に聴くことが出来る。この曲ではバッキングの大半はジョン・サイクスだが、ソロとバッキングの一部がエイドリアンだ。
サイクスとエイドリアンも同時に在籍したことはない。

更に、シングルの「Give Me All Your Love」では、バッキングがジョン・サイクス、ソロがヴィヴィアン・キャンベルというパターンもある。
レコーディングでゴタゴタが起こるWhitesnakeらしいエピソードといえる。

また、上記パターンとは別ながら、89年の『Slip Of The Tongue』では、エイドリアンの曲をすべてスティーヴ・ヴァイが弾くという変則パターンもある。

その他、1stの『Trouble』では、キーボードをピート・ソリーが弾きながら、メンバー・チェンジの関係ですべてジョン・ロードが弾き直すという普通のパターンもある。この場合は、旧メンバーの音は含まれていない。

尚、21世紀になってからの『Purple Album』でも同様のことが起こっているが、あちこちに書いてあるのでここでは省略する。