2019年3月5日火曜日

ゴキブリ!?

「Beatles」というバンド名。一般的には「カブト虫」の「beetle」の綴りとロックのリズムを表わす「beat」を混ぜて作ったと言われている。
しかし実際はもっと奥の深い別の意味合いがあるようだ。

まず、「beetle」は「カブト虫」というのが勘違いだ。カブト虫を含むかなり広い意味での昆虫を指す。テントウ虫もbeetleに入るし、日本で言う「カブト虫」はアメリカでは「rhinoceros beetle」と言うし、「jewel beetle」というと「タマムシ」だし、「black beetle」は「ゴキブリ」を指す。「cockroach」もゴキブリだが、「black beetle」は決して「黒いカブト虫」ではない。

Beatlesのバンド名の歴史を見ていこう。
最初はジョン・レノンの作ったスキッフル・バンドで、「Quarry Men」からその歴史は始まる。リバプールのグラマースクール(現在はほとんど廃止されているが、当時は中学校に相当した)であるQuarry Bank校に通っていたジョンが、校名をそのままバンド名に使った。直訳で「クオーリー校の男たち」ともとれるが、「quarry」は「石切り場」という意味もあるので、「石」=「ロック(岩)」で「ロックの男たち」という意味にもとれる。
ここで注目すべきは初バンドから、バンド名をダブル・ミーニングにしているということ。
その後、Quarry Menにはポール・マッカートニーやジョージ・ハリスンも加入し、音楽的レベルを上げていく。ポールやジョージはQuarry Bank校の生徒ではないが、それでも「Quarry Men」と名乗るのは、やはり「ロック男」という意味合いがあるからだろう。

ジョンは1958年にQuarry Bankを卒業し、9月にLiverpool College of Artに進学。当然、バンド名も実態に合わなくなる。これと前後して、3人だけになったバンドは名前をJaypage Threeと変えている(Beatles研究家のマーク・ルイソンの本による)。「Jaypage」という造語はジョンが考えたもので、3人の名前をモジっている(「ge」はGeorgeの「ge」)のだが、「Jaybird(かけす)」にかけており、ここでもダブル・ミーニングを意識しているのが分かる。ただ3人の名前をつなげた「J.P.G.」とか「L.M.H.」ではつまらないということなのだろう。

ジョンはLiverpool College of Artで知り合った芸術家肌のスチュアート・サトクリフと仲良くなり、ポールとはやや距離を置くようになる。やがてスチュをバンドに加入させると、3人の名前であったバンド名はまたも実態に合わなくなり、一時的に「Rainbows」を名乗り、やがて「Jonny & The Moondogs」を経て、「Silver Beetles」へと変わる。
「Jonny」や「Silver」はいずれもジョンを表わし、当時は「リーダーの名前+バンド名」というスタイルが主流だったための発想からのネーミングだ。「Silver」がなぜジョンを表わすかというと、ジョンの好きな冒険物語の『宝島』に出て来る悪役のボスの名前が「John Silver」だからだ。

こうして歴代バンド名を見てみると、「Rainbows」というのだけ例外的に明るく華やかなイメージがあるが、それ以外は華やかにはほど遠い結構ダークな雰囲気だ。
「岩のイメージ」のQuarry Men、上品とはほど遠いカラスの仲間の「カケス」のJaypage Three、月に吠えるMoondogsだ。
「silver beetle」という単語が何を指すか不明だが、「カブト虫」ではなく良くてもせいぜい「カナブン」で、決して「虫の王様」のような立派な雰囲気の名前ではない。それどころか「暗闇でうごめく怪しげな虫」というイメージなのだ。「ゴキブリ」に近い。
実際、「Beetles」というのはあまりに嫌悪される名前だということで「silver」をつけることで「黒」のイメージから離れ、「ゴキブリ」っぽさを薄めたということなのだろう。

バンド名「Silver Beetles」は、その後、メンバー全員が主役だという意味を込めて「Silver」を外し、その際にスペルを少し変えて「Beatles」になった。
後に世界制覇の華々しい活躍をするので、「虫の王様」的なネーミングがピッタリに思うが、全然そんなことはなく、もっとダークな雰囲気だったのだ。
実際、後年ジョン自身がバンド名の意味合いを訪ねられ「言葉だけを聞くとモゾモゾ動く虫をイメージするだろ、でも字を見るとビートミュージックというわけさ」と答えている。

彼らが大ファンで、バンド名のモデルにしたことでも有名なのが「Buddy Holly & The Crickets」で、「cricket」もまた、コオロギで、これも「美声で鳴く秋の虫」のイメージではなく「ゴキブリに近い肉食の黒い虫」のイメージだ。
80年代LAメタルに「RATT」というバンドがいたが、意味は「ドブネズミ」だ。その他にもダークなイメージという意味では、YardbirdsとかBlack Sabbath、The Clashとか沢山ある。男らしいバンド名には、明るく軟弱なイメージだけは避けたいと思うものだろう。(その逆をいく「Queen」とか「KISS」というようなネーミングや性的な「Sex Pistols」「AC/DC」「Whitesnake」等も面白いが)