2019年5月21日火曜日

作曲者はツアーに出れない不運

Whitesnake1978年の『Snakebite』『Trouble』から4枚目の『Come an' Get It』まではほぼ不動のメンバーで活動していた。本当はドラマーとキーボードの交代があってそれはバンドのパワーや推進力を増す大きな変化だったが、変化はそれのみで、作曲面ではほぼ影響がないものだった。

しかし1982年を境にバンドは激動期に入る。
ここから大成功を収め、1回目の解散をする1990年までが激動期で、その間の全アルバムの作曲とツアー・メンバーが別という不思議な状態に陥る。
決して計画的にそうしたわけではないし、そうするメリットもないのだが、様々な理由で偶然そうなってしまった。

この間にリリースされたアルバムは4枚。『Saints & Sinners』『Slide It In』『Surpens Albus』『Slip Of The Tongue』だ。

Saints & Sinners』までのWhitesnakeのメインの作曲者は、デイヴィッドとバーニー・マースデン。だが、バーニーはこのアルバムの完成を待たずに解雇されてしまう。当然、リリース後のツアーには在籍しておらず、代わりはメル・ギャレーとなる。
ツアーではベースとドラムも代わり、コリン・ホッジキンソンとコージー・パウエルのラインナップとなる。
もっとも、このアルバムは途中で一時頓挫しているので、これ以前のアルバムと比べるとバーニー色は少し薄い。デイヴィッド個人の曲やミッキー・ムーディーもいつになく健闘している。しかし「Here I Go Again」やオープニング曲「Young Blood」、タイトル曲「Saints & Sinners」等、要所でバーニーの存在が光っていて、やはりバーニー時代に入れるべきアルバムだと思う。
レコーディングはバーニー解雇後も続き、ミッキーはギターのオーバーダビングを、メルがバッキング・ヴォーカルを入れている。

Slide It In』でのメイン・ソング・ライターはメル・ギャレー。もちろんデイヴィッド個人の曲もあるが、Whitesnake=デイヴィッドなのでデイヴィッドがいるのは当然。ここではデイヴィッドの作曲パートナーのことを言っているので、メル・ギャレーということになる。
メルとは素晴しい曲を沢山作り、デイヴィッドとの相性も良かったが、不運なことに怪我によりバンドを離脱することになる。なのでツアーには参加出来ず、ライブではジョン・サイクスの一人ギターとなる。Whitesnake唯一の一人ギター時代だ。ちなみにベースもニール・マーレイに代わっている。
厳密にはほんの短い間だけメルとサイクスのギターでツアーを行っている。1984年2月からの全英ツアーと3,4月に計11回ライブを行なっていて、ここはメルも健在だった。メルの怪我は4月7日で、この後、復帰することはなかった。
このアルバム関連で、メル在籍時の貴重な公式映像は2つあって、アルバム発売に先駆けてリリースされたシングル「Guilty of Love」でのビデオ・クリップにはミッキーとメルのツイン・ギター、もう一つはスウェーデンのTV番組に出演した際の「Give Me More Time」でメルとサイクスのツイン・ギターのものがある。つまりこのアルバムに関わったギタリストは3人いるわけで、『US Remix』では3人の音が聴けることになる。
また、メルとサイクス時のライブとしては、『Slide It In 35周年盤』に新たに収録されたものが良い。

最大ヒットを飛ばした1987年の『Surpens Albus』はサイクスがデイヴィッドのパートナー。しかしアルバムの完成を待たずに解雇され、ツアーは他のパートも含め全員代わってしまったので、当然、レコーディング・メンバーとツアー・メンバーはまったく違っている。
厳密にいえば、エイドリアン・ヴァンデンバーグが少しだけレコーディングに参加し、ツアー・メンバーでもあるが、作曲の貢献はまったくしていないので、やはり作曲者とツアーという点では完全に別だ。

Slip Of The Tongue』ではやっと固定メンバーで活動出来る予定だったが、またしても不運が起こり、作曲者のエイドリアンが原因不明(当時)の腕の怪我でレコーディングが出来ず、スティーヴ・ヴァイに変更。アルバムにエイドリアンの音は1音も入っていない。
エイドリアンはツアーには何とか間に合ったものの、アルバムはヴァイ色が強いもので、作曲者のエイドリアンの方がゲスト・ミュージシャン的な存在となってしまい、曲中のソロもアルバムとは違うものを弾くし(ヴァイのフレーズはヴァイが弾けば良いわけで、エイドリアンはエイドリアンの色を出すのだから当然だが)、主に旧作までの曲のソロを担当することが多かった。主役は完全にヴァイなので、唯一例外的に作曲者がツアーにも参加しているが、影は薄いものとなってしまった。

まとめると以下のようになる。

アルバム 作曲パートナー 録音 ツアー・ギタリスト
Saints & Sinners バーニー バーニー ミッキー ミッキー メル
Slide It In メル メル ミッキー サイクス
Surpens Albus サイクス サイクス エイドリアン ヴィヴィアン
Slip Of The Tongue エイドリアン ヴァイ ヴァイ エイドリアン

まあ、何とも複雑な人事だが、結局原因は、解雇、怪我、解雇、怪我ということになる。解雇の怨念が不吉な怪我を呼ぶのか・・・。

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